その時、私の脳裏に電光掲示板のように流れていたのは・・
ジンセイ100ネントカイッテルケド アンガイ アト スウネン デ トンシ スル カモシレナイシ・・・
(人生100年とか言ってるけど案外あと数年で頓死するかもしれないし…)
それは、1万4500円を支払うかどうか?という選択の瀬戸際でした。
先日、福岡へ行った時のこと。
本当に偶然、たまたま、なんの予備知識もなく通りがかった博多にあるキャナルシティ劇場。
へー!どんなのをやってるんだろう?
足を踏み入れて覗いてみたら、なんと!
gypsy(ジプシー)が、まもなく開演されるところじゃないですか。
gypsy(ジプシー)は、大竹しのぶさん、生田絵梨花さんが出演するミュージカル。
大竹しのぶさんのラジオ番組が好きでいつも聴いているので、以前から気になっていたミュージカルなのでした。
見たい!
今ここに大竹しのぶさんや生田絵梨花ちゃんがいてはる!(なぜか関西弁)
そう思うと根がミーハーです。
いてもたってもいられなくなりました。
気がつくと、劇場のチケット売り場に来ていました。
ワープか!
すでに開演40分前。
劇場前は、たくさんの人が列を作ってポスターの写真を撮影したり、入場の列についたりしてごった返しています。
チケット売り場までワープしてきたものの本当のところ、売り切れました!とキッパリ言われてきれいさっぱり諦めをつけて帰るつもりでした。
ところが!
当日券がまだあると言うではないですか!
お値段、14500円。
しかも、クレカもペイペイも使えない。
受付は、現金のみ。
財布の中には、旅先のもしもに備えてお二人の諭吉さんが心地よさげに収まっています。
普段は、ほとんど我が財布にお越しになることは無いと言うのに。
揃いもそろって。
諭吉さんがお二人も。
このお二人がいれば、あれもできるしこれもできる。
どうしよう。
どーしよう。
どしたらええ?
その時です。
人生100年とか言っても、あと数年で頓死するかもしれない…、その言葉がカタカナとなって頭の中を流れていったのです...
見たかったミュージカルが、今まさに目の前にぶら下がっている。
取れるはずないと始めから諦めていたチケットです。
こんな偶然、偶然を通り越してもうチャンスとしか言いようがありません。
迷ってる場合じゃない。
これは、まさにチャンスなのだ!
これこそ、もしもの時なのだ。
私は、震える声で「お願いします」と言いつつ、財布に手をかけたのであります。
どうだったかって?
いやもうどーもこうもないですよ。
会場に入った瞬間。
キキ~とかタララッタ~とか聞こえてくる舞台奥に控えている生楽団の音。本番前の「ここんとこもうちょい練習しとこう」という数々の楽器の音です。
不揃いで音楽にもなっていない音が、そっと席に腰をおろした瞬間から心をくすぐります。胸の中で静かに収まっていたわくわくが一気に湧き出しました。
大竹さんのパワフルな演技はもちろんのこと、驚いたのは生田絵梨花さんです。
透き通るような愛らしくも美しい歌声。
テレビで拝見していた彼女は、まちがいなく可愛い「絵梨花ちゃん」
しかし舞台の彼女は、そのベールを脱ぐようにストーリーの中で幼い女の子から妖艶な大人の女「絵梨花さん」に変貌していくのです。ほっそりしたしなやかな身体のライン、真っ白な長い脚。女性の私でさえ、そのオーラに吸いつけられ胸が高鳴りました。
そして、なんといっても次々と変わる飽きさせない舞台。
私は、あまり舞台を見に行くことはない全くの素人。
何度か観劇に行っては、眠たくなる衝動に負けてきた舞台敗者です。
ほとんど睡魔との闘いで終わってしまったものもあります。
まるで川の向こうにいるような遠く小さく見える人々を見るより、でっかいスクリーンで表情の皺まで確認しながら鑑賞する方がいい映画派です。
それがです。
途中20分の休憩をはさんでも、3時間があっという間に終わってしまいました。
ラストには、盛大なスタンディングオベーションに応えて、大竹さんはもちろん、役者さん全員が3回、いや4回だったかな?(そんなに?ってくらい)何度も出てきては手を振ってくれました。
見終わったあとの気分と言ったら最高でした。
我が財布に、悔いなし。
諭吉殿よ、さらば!
「呼ばれた」時に決意することって、たいてい間違いない。
「呼ばれる」とは、その時心に湧き起こる情熱と、思いがけず目の前に出現する何かの合致とでも言いますか。
こっちから伸びている道と、向こうからやって来た道が偶然のように出会う時に起こる不思議な高揚感。
「見つけた!」っていう感覚。
そのワクワクが起きた時の決意は、必ず何かをもたらしてくれる気がします。
時間は常に淡々と過ぎて行き、決して待ってはくれません。
大竹しのぶさんは、確か私より少し上の年齢。確か65歳くらい。
その年齢で、あの小さくて細い体の奥から絞り出すんです。力の限りの声と情熱で何時間も演技するのです。
喉や体の自己管理は半端ないんじゃないかな。
こちとらの疲れたとか、なんかだるいとか言ってる場合じゃないな!と思いました。
※現在、この公演は終わっています。