その本。
すっきりとスリムなハードカバー。
黒一色の表紙に、降りてくる白い葉。
白い葉はシダ、羊の歯と書いてシダ。
その羊歯に映る光の輝き。
輝きの正体が、この本のキー。
「しろがねの葉」
しんと落ち着いた地味な表紙なのであります。
なんだ?この静謐だけれど意味ありげな表紙は・・・なんて手に取って気軽に開くと、いきなり闇に放り込まれます。
そして引き摺り込まれます、いきなりです。
山奥、森の中、欲が掘らせた危ない穴。
暗くて深い闇なのです。
しかし、一度この闇に眼が慣れてしまうともう止まりません。
主人公と共に、その時代を、人生を、読み進んでしまうのです。
表紙をめくったら放り込まれる「ここどこ?」な世界を。
とんでもない。
そんな夢や希望に溢れた冒険物語ではないです。
ならば、ジュマンジ?
いやいや、そんな見たこともない生き物が出て来たり、危機一髪のクリアを重ねてゴールにたどり着くゲームでもない。
生まれ落ち、それぞれが精一杯「生きて生きて生きて」そして死んでいく恐らくごく普通な人生の物語。
どんなにエネルギッシュに、どんなに強く生きようとも、必ず。
訪れる。
人生の最期。
こんな薄いページ数の中に、ぎっしりと詰め込まれた生きざまの数々。
泥だらけ、煤だらけ、汚れにまみれて「生きる」。
命の姿。
銀と引き換えられる命の炎。
かたちを変える炎のように、人が人を思う情。
その力強さ。
同時に地平線のように広がる優しさ。
それらが体の奥底から津波のようにせりあがって胸を突き破ります。
どっしりと重い感動がぐいぐい押し上がってくるのです。
一生をどう生きるかなんて、基本的にはその人次第。
けれども実際には、人々は生まれ落ちた世界で生きる。
生まれた時代、環境、出会う人々と共に、与えられた世界で生きる。
冷徹なドラキュラのように顔色ひとつ変えず刻々と時は過ぎ、たくさんの小さな人生が過ぎ去り、積み上げられ、歴史が刻まれていく。
そんなこんなに脳みそをわしづかみにされてしまいました。
両手を拳ににぎり、天に向かって「ぅうおおおーーーっ!」と大声で泣き叫びたい衝動に駆られます。
呆然と流れていくエンドロールを眺めて動けずにいるように、読み終えても、しばらくは閉じることができない本でありました。