ザックリとカットされた黒い前髪に見え隠れする、切れ長の目。
飾り気のないTシャツとやや長めのパンツ。
細い棒状のシルバーのピアスが、肩まで届きそうなくらいぶらぶらと揺れています。
まだ高校生くらいの青年でした。
彼の動きに合わせて前後するピアスは、せめてもの自己主張なのかな?
それ以外は「今どきの普通な」男の子。
「72時間」(NHK)という番組の中で、静かにインタビューを受けていました。
私は、この何でもなさそうな今どきの青年に衝撃を受けることになります。
その青年は、野菜の自動販売所に野菜を買いに訪れたのでした。
母親に言われて、仕方なくやって来たのかな。
この時点で、私はすでにこの「今どきの普通な」青年を色メガネで見ていました。
「今どきの普通な」人。
外からは全く異常には見えない人、平穏でむしろ良い人に見えるその裏側に、異常なものを持っている人の恐ろしさ。
それを身をもって体験したことにもあります。
こうして平静を装っているこの青年の裏側に、何が隠されているのだろう。
ピアスに込められている彼のメッセージは何なのだろう。
そう思いながら見ていました。
マスクの下から語り出されてくる静かな言葉。
今19歳。
弟と二人暮らし。
働いて、学校に行って、部活をしていると。
同じマンションの別の部屋に祖父と祖父母がいること。
父親は亡くなったこと。
そして、いろんなことがあって、母とは別に暮らしていること。
ここまでの19年の彼の人生は・・・
私が思いもよらなかった人生でした。
そして、続けてこう言いました。
色んな人に助けてもらったから、今度は自分が返していきたい。
そう思っている、と。
19歳の青年が、です。
これまでどれだけのことがあったか、どれだけの悲しみや不安があったのか。
19年間という短い人生をどう過ごして来たのか。
それは私にはわかりません。
だけど、
「今度は自分が返していきたい」って。
まだまだ、もらって当たり前の頃です。
なかなか思いつく言葉じゃないし、思ったりもできない年頃です。
そう言えるのは、なぜなんだろう。
たくさんのものをもらったから?
自分が思う以上のものをもらったから?
与えてくれた人々に、事務的でない真の心があったから?
きっと一緒に泣きながら応援してくれたから。
真っすぐに見つめてくれる眼差しと、差し伸べられた手の温かさ。
優しいけれど、厳しく。
一歩間違えば、捻じ曲がっていたかもしれない。
周りや、社会を恨み続けていたかもしれない。
悪いのは自分じゃない、悪いのは他者である、そう思い続けていたかもしれない。
人の心の内側を作るのは、自分と自分ではコントロールできない出来事。
自分をどう育てて行くか。
コントロールできないできごとをどうするか。
置かれている境遇に絶望したとしても、命を奪うのは異常だ。
有り余る自己エネルギーは、自分たちの未来を明るくするために使って欲しい。
野菜の入った白い袋をぶら下げて帰る後姿。
その姿をカメラがずっと見送っていました。
私には、動きに合わせて一緒に揺れる耳のピアスは、彼の心強い相棒たちに見えていました。