テーマを決めよう
降って湧いたようなタイ訪問である。
何を求めてタイを訪問するか。
前にも書いたが、寺院とか市場とかお買い物には興味がなかった。
その上、何の取り柄もない二人である。
そんな二人が何の関わりもないタイに乗り込もうというのである。
どうしたもんか。
しばし途方に暮れた。
あ!
そう言えば、夫T氏はリフレクソロジーのフットマスターの資格を持っていた。
のんきものだけが取り柄ではなかった。
彼は親指が異様に外側に反って曲がっている。勾玉のように反って曲がっている親指は指圧師とかマッサージ師の第一スペックだ(とワタクシは思う)。その第一スペックを持っているだけですでに指圧師とかマッサージ師に適任なのだ。申し子と言ってもいい。あなたはそうなるべくして生まれてきたのだ。
長いことかかってそう洗脳し続けた結果、T氏は昨年ついに資格を取ったのだった。
テーマが決まった。
T氏フットマッサージ研修旅行!
なんかかっこいい。
てなわけで、到着翌日にさっそく行った。
ここはタイなのだが台湾式足つぼマッサージへGO!
期待に胸を弾ませ店に入るとすぐに受付であった。
出迎えたやや髪の毛にツヤのない中年の女性は、のっけから不機嫌であった。
まあそういう人もいる。誰もが愛想の良いご機嫌な人とは限らない。
予約を確認すると、すぐに手を出してきた。
支払いが先ということね? 確認するとそうだという。
こちらは人として失礼のないように対応しているつもりだが、「なんであんた来たわけ?全く面倒くさいったらないのよ」そういう風な対応である。
とりあえず、本人に言っているかいないかの微妙な角度でオール日本語早口弾丸で言いたいだけ言って最後に、あなたはお疲れなのですね?と、きちんと伝えておいた。
効果があったかどうかは定かではないが、スッキリした。
さーて、楽しみなマッサージ!
薄暗い湿気のこもった部屋に案内されると、二人の男性が現れた。
熟練のシニアセラピストさんに90分一本勝負、じゃなくて90分のフットアンドショルダーのコースをお願いしていた。
白いマスクをした色黒で無骨な感じのおじさんが私の担当であった。
あなたがシニアマスター?
そうだ。と彼はちょっと胸を張って答えた。
夫T氏の方にはなぜか30代前後とみられる若手のお兄さんがついた。マスクはない。
お兄さんを見て、あ、できたらワタクシはお兄。。と全部は言えないが、そう思った。
二人は足元にビニールを被せた樽を用意し、せっせとお湯を運んで入れた。
樽の湯はモーレツに熱かった。
さっきの女性の仕返しかもしれない。熱湯足攻めの刑。
まさかね!
熱すぎるです~とシニアマスターをこき使って3回水を足してもらった。
こうして足を湯に浸けたことで体中がぽかぽかした。
施術は、もんのすごく痛かった。
痛がるたびにシニアマスターはウシシウシシと笑った。
完全に痛がるのを面白がっていた。ウシシマスターと呼んでもいいと思う。
しまいにはヘルプミー!と叫んだくらい効いた。
私は早々に強くせずに優しくsoftlyジェントリーにとお願いしたが、
夫T氏は、持ち前の我慢強さでウッ!とかヒー!とか言いながらも体をのけぞらせて懸命に耐えていた。
担当のお兄さんは、T氏がどんなに痛がろうと一切手加減せず黙々と作業した。
そんな夫T氏であったが、最終的に床を平手でバンバンたたいてプロレスの降参の合図をした。やっと弱くしていただけたようであった。
90分は、あっという間に終わった。
人生の60年間もあっという間であったが、マッサージもそうであった。
時は勢い良く過ぎ去っている。
一分一秒を面白がっていたい。
ウシシマスターもウシシウシシ言うわりに、はにかみ屋さんで優しい人であった。
そんなマスターに出会えて良かったな。
チップを渡しながら、一緒に写真を撮っていいかと尋ねると、意外にも二人ともいいといった。
4人で写真を撮りあっていると、どこからか賑やかな二人の女性セラピストさんが現れて、ここで撮ればいいよー!と店の表看板の前で撮ってくれた。
みんなに手を振ってさよならした。