シニアーゼ〜まるくるみらくる

60代は余生じゃない。荷物を降ろした新しい人生の始まりなのだ。

お店の生き残りには商品の良し悪しだけでない何かがある

みかんの季節がやってきました。

いつも行く八百屋さんの店頭に、大粒でツヤツヤのまるまる太ったみかんが盛り盛りのドカドカで山積みされています。

しかも一袋298円と安い。

新鮮でおいしそう! 

買うぞ買うぞと思いつつ、みかんの袋を手に取っていると、ちょうどすぐそばで、この店の大将が作業をしていました。

毎日エブリデイ身に着けているからでしょう、いつも通りの着古して白けた黒いTシャツに、これまたTシャツ同様黒いけど白っぽくなった前掛け。どっしりした体格で真っ黒に日焼けしているので熊さんみたいです。

時々、熊が立ち上がるように店内を見渡したり、夏にはスイカを割っていたり、店頭の野菜たちを箱ごと移動させたりしています。

今日も、きゅうりが4本で〇円になったよーだの、ナスがうまいよーなどと声かけしながら箱を片づけたりしています。

これ、甘い?

もちろん、甘いよ~おいしいよ~という答えを期待して、大将に向けてみかんを差し出すワタクシ。

安くておいしそうなの買ったよ~なんつってウキウキ帰りたいじゃないですか。

だって、黄色とオレンジと時々グリーンの爽やか色がはち切れそうに輝いて、見るからにうまそうなみかんちゃんなんですよ。

さらに、大粒ってところがいいです。ちまちましていなくて、食べる時にぶわーっとみずみずしいみかんの汁が溢れるところがまた好きなんです。

しかも、長崎県産。九州贔屓の私としては、もうそれだけでオッケー!みたいな。

しかし!

熊大将から返って来た答えが、

う~ん。。。そーでもないかな~。

え?

そーでもないって、あなた、それ!

みかんを手にしたまましばし固まったワタクシ。

正直すぎるでしょ。思わず心の中で大笑いしました。

愛媛県産のあっちの方が甘いかな~なんて真剣に考えながら続けています。

うんうん頷きながら、とりあえず愛媛産のみかんを見やると、小粒でまんべんなく濃い黄色に熟れています。確かに甘そう。

教えてくれてありがとう。マスクの下でニッコリ笑ってお礼を言いつつ、カゴに長崎県産の大粒みかんを入れました。

 

気に入って選んだみかん。食べた瞬間に口元がタコ入道になるくらい酸っぱくても、そのみかんにひとめぼれしたんです。

それでいい。

うちに帰って、夫T氏と長崎県産大粒みかんを頬張ると、なんと!

うんまーい!

濃い甘さではないけれど、ジューシーであっさりした中に甘みが十分に蓄えられています。愛媛産の高級ミカン「まどんな」みたいに実がゼリーのようにぎっしり詰まっていて食べ応えも充分。これこれ!これですよ。二人してうまいうまいと大粒なのに2個ずついただいてしまいました。

 

翌日、いつも通り熊みたいにうろうろしながら店頭を仕切っている大将に、

昨日のみかん、おいしかったよ~!

あまりの正直っぷりにびっくりしたけどね~。また今日も買ったよー。

声をかけると、

良かった!おいしかったなら良かったー!

真っ黒な顔をくしゃっとほころばせて、小ねずみのように笑ってくれました。

 

スーパー以外に、ご近所にある八百屋さんが熊大将の店を入れて数件。

 

その中の一件は、いつも整然と同じ場所に同じように商品が並んでいます。絵本にでも出てくるみたいに色とりどりにきっちり。

きちんと商品を管理しているのでしょう。

ここの大将は、痩せ型かつ俊敏系の恐らく70歳がらみの仕事きっちり系おやじさん。いつも目をギラギラさせて店頭をパトロールしています。

野菜や果物を手に取って品定めするのを大変に嫌い、ひとつふたつと手に取って見ていると「どれも同じ!」とお客さんを叱っています。ひとつ売れると、サッと出てきて野菜や果物の並びを整えます。

確かに野菜も果物も、変にいじられたり触られたりすると傷みますもんね。せっかく仕入れた商品を台無しにされたくないし、仕入れたままの良品を売りたい一心なのでしょう。品物に自信があるのかもしれません。

なのでこの店では、触れずに品定めする技術と眼力が必要となります。あらゆる方向から商品を覗いたりガン見したり、ある意味コロナ対応が昔からできていたとも言えます。パトロールオヤジの目を盗んでちらっとめくったりするスリルもあります。

電子決済も早々に導入したので便利です。

しかし、安いな~と思って買ったものの下の方に、古くて痛んだものが仕込まれていることが何度かあったこと、仕事帰りの夕刻に行ったら「あなたたち安くなると思ってこの時間に来てるんでしょ」と誰にともなく言っていたのを聞いて行かなくなりました。

 

熊大将の店は、パトロールおやじの店とは対照的です。

品物はいつも大雑把にがらがらと盛られているし、通常なら売り物にならないような不格好なものを「難あり」とか「傷、スレあり」と表示して安く売ったりしています。

見たところ新鮮でおいしそうなのに、あんまり安いから逆に不安になって、

これ、なんで安いの?

と尋ねたりします。それがゴボウなら途中で折れたからだよとか、おナスならスレとか傷とか形が悪いからだよ、とか教えてくれます。規格外と言うものでしょうか。

その日のお天気とか店休日の都合なんかで、買い物している最中に熊大将のひと言でいきなり価格が急降下したりします。

鶴の一声ならぬ熊の一声です。

レジに辿り着いたのに、「下がったね、一個で良い?」「ちょっと待って!もう一個持ってくるわ」ってなったりします。

前を通ると、なんか思いがけないものに出会いそうでついつい寄ってしまいます。

まるで宝探しをしている気分とでもいうのかな~。

 

お客として訪れる人の好みだと思いますが、大型スーパーもすぐ近くにあるのに、どちらのお店もそれぞれとても繁盛しています。

 

そして私は、また何か面白いことが発見できないだろうかと、ついつい八百屋さんの店頭に吸い寄せられるのです。

並んでいる野菜や果物の顔を眺めては、キュウリももう終わりだな~とか、あぁもう柿の季節なんだな~なんて四季折々の季節をも楽しんでいます。

 

どこの店にも野菜や果物が所狭しと溢れるように並んでいて、気分や好みでお店を選ぶこともできて、それでもどのお店も繁盛している。

こんな幸せな世界が、これから先も続いてくれたらいいなぁ。

こんな小さなワクワクをずっと続けられたらいいなぁと思うのでありました。