シニアーゼ〜まるくるみらくる

60代は余生じゃない。荷物を降ろした新しい人生の始まりなのだ。

癒しをもたらす居場所にあるものは

久しぶりに腰をやりまして。

40代の頃から数回あったのですが、だいたい一週間程度で自然に治っていたんです。

なので、一週間もしたら治るもの、という全くの独自的楽観治癒法を至極当然に貫き、病院の「び」の字も思いつきませんでした。

もともと病院は大の苦手。

しかし、数日経ってもあまり改善しません。

もう昔の元気いっぱいな自分じゃないんだなー

ある程度、体のあちこちにガタがきて人工部品を装着している我が身。

行くしかないか。

意を決して近所の整形外科に行ってみることにしました。

 

初めての整形外科。

受付を済ませ、待合室の片隅に座ってスマホも雑誌も見ずに様子を伺っていたら、なんだかここ病院じゃないみたいです。

来院する人も帰る人も、受付の人と慣れた調子で声かけあっています。ひとっ風呂浴びて、さっぱりしてお帰りですか?なんて思いにとらわれる、ここって、もしかして銭湯?はたまた健康ランド?ってな風情。

なんで?

なんでだろうと思い始めたらもう気になって仕方ありません。

さっぱりした人々は向こうの方からやって来る……。

向こうへ移動してみることにしました。

目指すは、受付の前を通り過ぎ、その先に広がる部屋に一番近い椅子。

その椅子が空いたのを見計らって、走りたいのを堪えつつ(どうせ腰痛で走れない)何かを思い立ったようにゆっくりさりげなく移動。

そして目標の椅子を確保!

 

何でもなさげなふりを装いつつ、横目や退屈な感じを駆使してチラチラとしかし興味津々にその部屋を覗いでみるとそこには。

明るくて活気に溢れた世界が広がっておりました。

カーテンに仕切られたベッドや、たくさんの機材が所せましとひしめき合い、人々が奇怪な形の椅子に腰掛けたり仰向けになったり、首をつられたりしているのです。

その前にかがみこんで足を持ち上げたり、後ろに回って何やら施術をしている看護服?の人もいます。

なるほど! ここはリハビリルームなんだ。

来院している顔ぶれをつらつら眺めると、高齢の方からお若いお嬢さんまで幅広い年齢層。

と。ちょうどそこへ、ご高齢の女性が入って行きました。

顔を突き出し腰を70度くらいに丸く曲げながら、背中に背負ったリュックと手にぶら下げた荷物でバランスを取るように歩いています。

途中、片手で宙をかくようにしながら、慣れた風に備え付けのカゴをひょいと取り上げます。

どうやら、施術中の荷物入れのようです。

すると、向こうの方から、元気のいい女性の声が飛んできました。

ひとつで足りますか~?

そう言いながら、機材の林をかき分けるようにして、もう一つカゴを取りに来ます。

高齢女性は小さく頷いて曲がった腰のまま所定の(たぶん)場所へと向かいました。

リハビリ師さん、入って来た女性の荷物の多さを瞬時に把握して声掛けしたのです。

大きなお世話かもしれない些細な一言。

 

人気のある病院らしく、長いこと待ってようやく名前を呼ばれました。

そろそろと診察室のドアを開けると、白色系の予想以上に明るい照明。

マスクの上の優しい眼差しと、お笑い芸人みたいに朗らかな声が出迎えてくれました。見た感じ50歳前後の先生です。

こんにちはーと、もうすでに半分立ち上がって動き出さんばかり。

足の屈伸ぶりがフットワークの軽いバッタ君みたいです。

散々待っても自分は10秒で終わりっていうあのパターンかな〜と思ってたら、意外。きちんと向き合って、ふむふむと現状を丁寧に聞き取って症状の質問までしてくれました。

そして、レントゲンを撮ることに。

 

レントゲン室に入ると、そこに待っていたのは、若干いや結構ご高齢のたぶん還暦過ぎた看護師さん。

ハイジに出てくるロッテンマイヤーさんが、すっかり歳を取っても相変わらず髪の毛をぴっちり引っ詰め、トンボメガネをかけてピンクの看護服を着ている、そんなイメージです。

開口一番、レントゲンの大敵である金気のある物を身につけていないかチェック。

ブラは金具付いてま…す?

一切ついてません~。ブラトップです(笑)

照れながら答えると、ロッテンマイヤーさんは漫才のツッコミみたいに、

あらま、最高!

次に、ゆっくり、ゆっくりねと言われながらレントゲン台に横たわっていると、二番目のチェック。

スカートに金具は..あるかしら?

ありません。ゴムです!

ゴムをびよんびよんさせながら答えると、

今度は野球の審判みたいに、

パーフェクト!

思わず二人で大笑い。

ロッテンマイヤーさん、どうやら中身はワハハ本舗のマチャミさんです。

 

さて、バッタ先生、そのレントゲン写真を見ながら痛みの原因を説明したあと、ついでと言っては何だけど背骨が片方に曲がっているねと言いつつ立ち上がり、私の背後にあっという間に回り込んでいました。

ほらね、片方の肩が下がっているよ。

そう言うためです。

しかしバッタ先生、背後から私の背中を見るや、

「あれ!?」

固まっています。

どど、どうしました?

「完璧だな~...???」

ふふふ。私は日ごろから姿勢には気をつけているんだよ明智君(いきなりの名探偵 明智小五郎登場)じゃなくてバッタ先生。

心の中でほくそ笑みつつ、ん?と思いました。

なんという正直者なんだろう、この先生は。

普通なら、「ちょっとわかりにくいけど、やっぱりこっち側が下がってるね」なんてごまかしたい所。

それをね、「完璧だな~???」ですよ。

この正直なバッタ先生に吹き出しそうになりました。

その後は、立ったまま腰に良い体操を身振り手振り教えるバッタ先生。

これをね、毎日2回でいいの。そーそー!それでいいよー。僕も毎日やってます。

正直バッタ先生の指導通りにやってみる私を励ましながら、嬉しそうに言います。

ひとりの患者にこれだけの時間をかけてしゃべり倒すって、かなりの重労働。

口の中も乾くし、なにより疲れます。

必要なことだけしゃべって、適当にサッサと帰ってもらいたいはず。。。

 

その時、ああこれか~!ってわかった気がしました。

この病院のスタッフ全員の伸び伸び感の根っこ。

スタッフのそれぞれが、来院する一人一人に合わせた気取りのない落ち着いた気配りができるのって、この病院のトップである、軽いフットワークの正直なバッタ先生にあったのだと。

 

口から発する、さりげなくて些細な言葉には、いろんな力があります。

知らず知らず人を傷つけることもあります。

でもね、人を癒したり、いつの間にか救ってたりする言葉って、なかなか出せるものじゃないです。

たくさんの積み重ねと、費やした人生時間。

お手本になる人と共有した経験。

長年、一緒に仕事をしてきて、ともに学んで培った人間力なのです。

気負いなく普段着みたいに使いこなせるまでの人生経験があって初めて、出てくる言葉。

そんな一言一言がこのホカホカした場所を作っている。

 

これから先も、ここにお世話になろうっと心に決めた腰痛のくらすこでありました。