シニアーゼ〜まるくるみらくる

60代は余生じゃない。荷物を降ろした新しい人生の始まりなのだ。

おばさん力全開!その先にあるのは、

 

とある町の小さなお店のお話です。

 

ふ ふ ふ。。。

 

きゅるきゅると横に戸を押し開けて顔だけ入れる。

誰もいない。

もう少し広げて、思い切ってしなやかで美しい体(←うそ)を滑り込ます。

足音を立てないように細心の注意を。。。あ。

 

間違えました。

 

思い切り足音を立ててドスドスと中へ入る。

誰も出て来ない。

よし、今だ!!!

ショーケースを間近で(目が悪いから)しげしげとじっくり見る。

足音を立てて移動しながら、隅々まで見る。

じっくり見たので買い求める商品は決まった。

のに、シーンとしている。

誰も出て来ない。

こっちは、来てますよ~気配モリモリに出しているのにだ。

もしや? 死んでいる? 殺された?

 

試しに叫んでみる。

お願いしまーす!すみませーん。。。

 

と、

あらあら、ごめんなさ~い!

奥から小走りに、白い割烹着に白い三角巾ぽいものを装着した小柄なオバサマが現れた。

良かった。生きていた。殺されてなかった。

「なにしてたんすか? あらあらじゃあないっすよ」

「私はねー、心配してたんですよ。この清らかな心で!」

と詰め寄りたくなったが、とりあえず、死んでいなかったので良しとした。

万が一、テレビに夢中になっていただけだとしても、それはそれで、

かわいい♡

 

気の良さそうな中年のオバサマであった。

 

さっそく、え~っと、これと、これを下さい。

小さなショーケースの中から、ガラス越しに数種選んでお願いする。

なんと!

いきなり!

どれにします?

そう言いながら、バットごと目の前にガーッと出してくるではありませんか。

え? 選んでいいわけ?しかも、目の前に現物。大丈夫かな。指先のアルコール消毒もしてないけど、ええのかな、あれこれ戸惑いながら、けれども、なんだかニヤニヤしながら そおですか、じゃあ。これと~と指をさした瞬間。

 え!?

って。

えって言われましても、それどゆこと? やっぱり指さしちゃだめだったのかな。さした指そのままに呆然としている私に彼女は言った。

それでいいの?

なんと、指定したそれでいいのかと念を押してくるではないですか。ウィルスとか指の問題でなくて良かったとホッとしながら、

い、いけないですか?

じゃあ、どういうのがいいでしょう。

60年も生きてきて、お肌の状態すらすでにほぼ化石と言われてもいいくらいの経験を積んできたワタクシであったが、まだまだ修行が足りなかった。正しいものを選び抜く「目」を持っていなかった。心の中で愕然としながら気のいいオバサマの意見に耳を傾けた。

 

これとかね、これ。ぐるぐるしたやつがおいしいよ!

 そう。

ここは、唐揚げ屋さん。

 

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 ぐるぐる。。。

「あのさ、そこって、もものところの噛みごたえあるあのあたりよね。それ知ってる。60年生きて来たワタクシは、噛み応えと濃厚なお味より、柔らかくてほろっとした淡白系が好きなの」とは思ったが、そこはホラ、ねえ、相手様の思いやりを踏みにじるようなことはちょっと、、、逡巡していると、私はそこがおいしいと思うわよ、私は好き、さらに畳みかけてくる。

もはや、噛み応えぐるぐるオバサマ VS 柔らかほろっとオバサンの闘いの火ぶたが切って落とされるか!という一触即発の事態に!

しかし、天性の素直さを持っているワタクシである。なるほど、今までの私の好みは単に食わず嫌いで思い込みかもしれない、ひとつ味わってみるとしよう、即座に思考を転換してオバサマのおすすめを買い求めるに至った。

さらに、柔らかくてほろっとな部分もなんとか滑り込ますことができた。ふふふ。オバサマは、えぇ?そこぉ?とちょっと不本意な顔をしていたが、てへへ、ここんとこも入れてもらおうかな、なんて無邪気を装う作戦で乗り切った。

ついでに、大好物の「かしわめし」(注1)のおにぎりも入れてもらった。

このお握りについては、最高においしいわよ~というオバサマからの絶大なる賛同をいただけて何ごともなく無事に終了。

 

(注1)小間切れにした鶏肉をごぼう、人参などの野菜と共に炊き込んだご飯。九州の北の方のふるさとの味と言ってもいい。

 

 会計を済ませて帰ろうとすると、ポイントカードを作るかと聞いてきた。

ポイントカードは作らない派なので、通常なら”いりません”のひと言で終わるところ。しかし、なぜかこのオバサマには、3秒くらい軽く事情を説明し、遠くから来ていて頻繁に来ることはないから作らないと詫びた。

すると、さすがは唐揚げ屋さん。驚いてコケーッとひと声鳴いた(ように見えた)と思うや否や、ものすごいスピードで、一番上の段の一番高いやつをトングで取り落としそうになりながら、ポンポンと二つ袋に放り込んで「おまけ入れておくね。また来たら寄ってね」とにっこり笑った。

その姿は、さながら実家に帰省していた我が子が じゃあ行くね と実家を発つ時の あ、そうそうこれも持っていきなさい そう言ってそこいらにあるものを手当たり次第に持たせようとする親の姿と重なるものがあった。

 

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オバサマから受け取った唐揚げの袋は、ずっしりとしてほんのり温かかった。

普通なら実質的顧客とならない人にオマケなどしない。

ワタクシが、胸を熱くしながら「間違いなくまた来ます」と心に誓ったのは言うまでもない。 

 

このお店をご紹介したいところであるが、ご時世的およびおまけを入れたことで、オバサマがなんらかのお咎めを受けることになると悲しいので伏せることといたす。←なぜここだけ時代劇