熊本の記録的豪雨で、球磨川が氾濫した。
泥水が、ざぶざぶとバタフライしながら不気味な顔で街を駆けていた。
その映像の中に、
自衛隊員に抱きかかえられて避難する子どもの姿があった。
自衛官のオレンジ色の救命胴衣と、その子にも着せられた同じオレンジ色の救命胴衣。
鈍い色の泥水の中に鮮やかなオレンジが戦隊もののヒーローを連想させた。
小さな背中をしっかりと抱きかかえる若いオレンジ自衛官。
ふと、その手が優しく背中をたたいたのが見えた。
無意識の行動だったと思う。
もう大丈夫だよ。安心していいんだよ。
手のひらのとんとんが、無言でその子に語りかけていた。
抱っこされた時のぬくもり。
背中に伝わるとんとんの響き。
どんなに温かい手であったろう。
私にも同様の小さな経験がある。
目の手術をした時だ。
目の中の水晶体を砕いて取り出し、代わりに人工のレンズを入れる。
歳を取れば誰でも経験するような手術。
だけど一歩間違ったら、失明するんじゃないか?
命にも関わらない手術なのに怖い。
やっぱり見えなくなるのは嫌だ。
若い頃、お産のあとの経過が悪くて再手術になった。
その時、麻酔を打った瞬間に麻酔ショックで死にかけたことがある。
なので、特別に心拍計も準備しての手術だった。
そんな目の手術の途中。
水晶体を砕き吸い出した目の中に、丸い淵を描いて残った抜け殻が見えた。
ちょうど猛獣がくぐる火の輪の炎みたいにびらびらと揺れていた。
ここに人工のレンズが入れば終わる。
緊張が続いているそこへ、「あれ!?これ違うよ!」執刀している先生の声。
ばたばたと走る足音。
え!ええ!えええ!
せ、先生、なにが何が違うの? その準備!この状態から間に合うの?
漫画で言うと、頭付近から大きな汗のしずくがたくさん飛び散ってるあの感じ。
どくどくどく。。。自分の鼓動が聞こえた。
心臓の鼓動を全身で感じながら、また麻酔ショックを起こしたらどうしようとかあり得ないことも頭をよぎる。
心拍計が大きく波打っていた(と思う)。
すると、私の手をそっと握る手が。
あったかい。。。
ふんわりしている。。。
「大丈夫ですよ~。」
まるで天女の羽衣みたいだった。
不安と恐怖を丸ごと包んでくれた。
看護師さんの手だった。
鼓動が静まって行くのを感じた。
手術は無事に終わった。
こうしている今も、自然の猛威は続いている。
人間は、その手のチカラを違う方向に使い過ぎたんじゃないか。
でっかいジャイアンツハンズが現れて、 あたたかい手の温もりのように、この荒れ狂う自然の怒りをそっとくるんで治めてくれたらいいのに。