シニアーゼ〜まるくるみらくる

60代は余生じゃない。荷物を降ろした新しい人生の始まりなのだ。

これからシニアに必要なものってやっぱり。。ね!

母88才。

今年の誕生日を迎えると89才になる。

認知症は少し進んでいる。進んでいるが、ちゃんと人である。

歳を取って記憶が曖昧になり、新しいことを記憶できなくなるが、決して人格的に崩壊はしていない。

 

しばらくぶりに訪問すると、ちょうど、デイサービスの時間で他の入居者さんと一緒に静かに座って何かをしていた。

そっと覗き込むと、ぬり絵だ。

ぬり絵。

大人のぬり絵とかではなくて色鉛筆で塗る普通のぬり絵。

お隣の女性が力を込めて懸命に塗っていたのに対し、テキトーでええわぃ!と言わんばかりにいい加減な感じでしゃりしゃりと力なく塗っていた。

そこからすでに笑いそうになりながら、どないな感じですかい?と顔を思い切り近づけて声をかける。

驚いてぎょっとした目で言葉もなくワタクシの顔を凝視している。あれ、どうしたかなと思っていると、 あんた、いつまでもきれいやね、と来た。実の母とは言え、正直にもほどがある。あと3回くらい言ってもいいぞ、と心の中で思い、まだちゃんと娘の顔は憶えていることを確認して やっぱりそお!? と顔を寄せ合って笑う。

(ちなみに、母はよく言えばおたふく、最上級に言えば観音菩薩、悪く言うと、目だけ点に変えた鬼瓦のような顔をしている。さらに言えば、ワタクシは父親似である←ここ重要)

 

この施設に入居して約2年。

症状が改善しているのが嬉しい。

 

2年前は、2~3分に一回のペースで電話をしてきた。

昼休みに携帯を見ると、母からの着信履歴が100件以上あって恐怖した。

ついさっき話したよーといくら言っても忘れていた。

昨日のことも憶えていないし、数分前のことも覚えていなかった。

 

不思議なことに、電話は かけることはできたが、受けることはできなかった。

私がかけて何回も受ける練習をして、母の電話の受けるボタンに真っ赤なシールを張り付けて トル とマジックで書いてもダメだった。

呼び出し音が鳴って、偶然そこを押してトルことができているのにわからない。

おかしいねぇ~、どーするのかなーこれ、とか言ってる声が聞こえるから、大声で、もしもーーーし!お母さーん!!!と叫ぶのだけれどブチッと切れる。

切れてしばらくすると、かけた~?とかけてくる。

その繰り返し。

こっちもだんだん慣れてきて、そのうち数回呼び出したら切り、母からかけて来るのを待つ、そういう数回切りで電話を繋ぐことにした。

 

そうこうしているうちに、兄から母の電話を一時中断するぞと連絡があった。

私だけでなく、兄にも知人にもツブテのように数分単位で電話をしていたらしい。

兄には言えなかったが、私は朝出かけて仕事から帰って来るまで母の電話をブロックしていた。

仕方がなかった。そうしないと、一日中、電話が鳴る。

母を憎みたくなかった。

帰宅して自分自身が機嫌よく話せる体制になってからブロックを解除し、数回切りで電話を繋いだ。

そんな防御策を取っていたのに、実際に母との電話が繋がらなくなった時は泣けた。

なんだかわからないものが押し寄せてきて泣けた。

兄も苦渋の決断だったに違いないから、黙っておいた。

 

そんな状態から約2年。

 

ぬり絵をやめて部屋へ行くというので、よっこらしょと歩行器を使って一歩一歩ゆっくり部屋へ向かう。

ぬり絵はいいのか?と尋ねると、あんなもの仕方ないからやってる、別に楽しくもないと言う。

おお、なんか、昔の感じに戻ってる。

 

父が逝ってすぐの頃、デイサービスなんかに行ってみないかと誘ったら、幼稚園児じゃあるまいし絶対に行かない!そう豪語していたのだが、だんだんと変わって行った。

 

最終的に施設に入った時には、まだ、入居した初日にも関わらず、体操の時間に誰よりも元気よく手を上げ下げ(座り体操)していたのを見て笑いながら泣けた。

 

そんなわけで、ぬり絵を仕方なくやっていると言い捨てるのを聞いて、嬉しくなってしまったのだった。

 昭和の教育を受けて育った世代だ。

気が進まないことも、周囲に合わせておとなしく従うことができる。

 

部屋へ戻って何時間も二人でしゃべった。

最初は、今、どこにいるのか? 今日はどこに泊まるのか?

私の所在と、今日の宿を心配する。

実家を出てすでに35年が経ち、すでに実家は他人様の手に渡ってしまったが、もしや私が実家からやって来たのでは?と思うらしい。

自身の願望が妄想へとすりかわり、それを事実だと思い込むことが頻繁にある。

どっからどうしてそーなった?とびっくりするような作り話が飛び出すこともある。 

妄想が事実でないことを落胆しつつも、その確認を何十回も繰り返す。

全く同じセリフで繰り返す。

同じだが毎回新鮮だ。

 

そのあと大抵は、父や近所だった人の思い出話に終始するが、今回は違っていた。

同じ入居者さんとのやり取りを楽しそうに話した。

自分が会話の中で人を笑わせた話しや、励ました話し。

今までもここで知り合った人たちの話しはしたが、今回のように自身の楽しかった感情を交えて話してはいなかった。

ヘルパーさんとのやり取りも、内容に思い込みや勘違いはあるが、だいたいはちゃんと嬉しい感情で記憶していた。

新しい記憶だ。

新しい感情の記憶が入っている。

 

以前は、次の日に尋ねると昨日のこともすっかり忘れていたが、今回は昨日私が来たことを覚えてもいた。

すごい。

毎日、認知症の進行を遅らせる薬も飲んでいるけど。

すごい。

人の脳って、いくつになっても学習して成長できるんだ!

もしかしたら、もっともっと良くなるかもしれない。

 

良くなったワケを考えてみた。

 

この施設のおかげ

 

第一に、ここは、おしゃべり好きな入居者さんが多い。誘ってもらって数人で誰かの部屋に集まっておしゃべりしている。もしくは、ダイニングにだれかれとなく来て、絶え間なく人の話し声が聞こえる。そこへ参加もしている。

 

第二に、デイサービスが充実している。週に何回もある。孤独にならないよう、なるべく部屋から出て人と交わるように配慮されている。

 

第三に、母の大好きな買い物ができる。月に数回、食堂にお店の人がいろんな商品を持ってきて販売する。

その時が本領発揮だ。

本来、大の買い物好きなのだ。浪費家と言ってもいい。お金があったら買う。あるだけ買う。旅行に行って、景色とか風情とかはどうでもいい。最も目がらんらんと輝くのはお土産屋さんに入った時。お土産を届ける誰かれの顔を思い浮かべながらどんどん買う。

 母にとって、買う 食べるために買う という行為がなによりのイベントなのだ。

一度、施設を抜け出して大型スーパーマーケットに連れて行ったが、その時の目の輝きといったらなかった。わー!楽しい!そう言ってゆっくりゆっくり売り場を回った。脳内で子育て時代やなんかの自分活躍時代にタイムスリップしていたと思う。

 そのくらい買うという行為が好きなのだ。

 

 施設に入る前は、いつ行っても冷蔵庫に食材がパンパンに詰まっていた。

買うのは好きだが、料理したり整理したりは嫌い。

面倒くさい。

奥の方の物はたいてい賞味期限が切れていた。

訪ねるたびに大量のゴミと化した食品を捨てた。

冷凍庫、冷蔵庫、最初は奥から。

次は前から三列目まで。

その次は、前から二列目も。

そしてとうとう、最前列の物まで腐っていった。

 

2年前は、そんな状態だったのに、本来の母に戻ってきた。

やんちゃで、姉御肌で、面倒くさがり(これはどんなときでも変わらない)の母に。

 

嬉しい。

 

一人でできることはうんと少なくなった。

社会的に役立つことはしていない。

それでも、母はちゃんと人なのだ。

 

時折、洗濯物のタオルを畳んであげているのだと自慢げに言う。

実際は、畳ませていただいているのだが。

もっともっと、たたませてやって欲しい。

 

人はそれぞれ楽しいと感じることが違う。

落ち着く場所の好みも違う。

 けれど、どんなに面倒くさがりでも、人と交わることは楽しいし、誰かの役に立つことは嬉しい。

 

座ったままでもいい、休み休みで能動的に何かできることがないだろうか。

 

例えば。。。

                       

● 施設の中に、誰でも好きな時に使える多様な居場所を作る。

  小さな図書室 

  小さなパソコンルーム

  小さな畑

  小さなキッチン

  小さな売店

  カラオケとか大音量を出していい部屋

 控えめに「小さな」としたが別に大きくてもかまわない。

まだまだ色々あると思うが、とりま、思いついたもの。

あ、あと、Wi-Fi!

                         

                       

● ほんでもって、働きたい意欲のある入居者がそこで働く。

  強制ではなくて、自分の意欲で働く。

  無理のない時間・範囲で働く。

  利用する人の介助をしたり、作業をしたり。

  各場所の掃除を担当してもいいと思う。

例えば、図書室。

だんだんと目が不自由になって、読んだり書いたりするのがめっちゃ疲れるようになりますよね。まあ、これは自分のことですけども。えへへ。

だから、少しずつ本を音読して録音する。読みたいけど目がちょっとねぇ~と言う人に好きな時に聞いてもらう。もしくは、その場で読んであげる。そこからまた、なにか考えついて発展する。

 

わあ!なんか楽しくないですか?

 

完璧にできなくてもいいじゃないですか。

多少散らかってようが、ごちゃごちゃしようが命に別状なければそれで良くないですか? 

 

え? 

あんた大丈夫か? あんたの方が妄想癖あるで?

ぃいいい~んです!!!

残り少ない元気期間ですからね、好き放題言わせてもらいますよ。

 

ここからが大事なポイントですよ。

 

私の場合ですけど、たぶん、みんなそうじゃないかなと思うんです。

 

趣味じゃだめなんですよ。

趣味って、自分次第じゃないですか。

仕事だと違うんですよ。

誰かの役に立ってる、何かの役に立ってる。

生き甲斐って言ってもいいですかね。

そんなものが、必要だと思うんです。

ほんでもって、そこに報酬がくっついてきたら、もうね。

最強!!!

 

でもね、こんな人もいますからね。

来ました。詐欺メール。

気を付けてくださいね。

どっからどう見ても詐欺だってわかるから、まだ良かったです。

こういう人って、何が生き甲斐なんですかね?

 

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