シニアーゼ〜まるくるみらくる

60代は余生じゃない。荷物を降ろした新しい人生の始まりなのだ。

命のビリビリにのけぞる

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雨上がりの午後、職場の駐車場のアスファルトに何かくしゃくしゃとした黒いものを見つけました。

ゴミ?

近づいてみると、なんだか昆虫!

何者かに踏まれてべったりと地面に張り付いた昆虫。。。かな?

黒い羽だけが虚しく空に向かって立ち上がっています。

車に轢かれてしまった? 

そう思いながら改めてよくよく見ると、胴体が左右に伸びてしっかりとしているし、きりりと顔もある。

んん? 

羽がくしゃくしゃとしているだけで本人は元気そうじゃないですか。

んん〜? なんじゃ〜?

あ! 

これは!!!

これは羽化だ。羽化の途中だ!

サナギから出てきた蝶が、羽を伸ばそうと頑張ってる最中なのだ。

しかしなんでまた、こんなだだっ広い草も木もない駐車場のじんめりしたアスファルトで?

脱いだ皮はどうした?

一瞬にして頭の上にハテナ マークが10個くらい点灯。

が、そんなことの前に、こんなところで人生の大事なスタート行事を物々しく執り行ってる場合じゃないよ!

でっかいタイヤに轢かれてあっという間にぺったんこのビッタンコになってしまうよ!

そう思うが早いか、私の三本の指がしっかりとそのまだ開いてないくしゃっとした羽を掴んでおりました。

えと、えーと、どこか踏まれないところに放り投げなくちゃ、大急ぎであたりを見回してたら、およよよよよ〜っ、やめてくれ〜、それでなくても虫は苦手なんですよー。

掴んだ指にぶるるるん、ぶるるるんと力強い震動が来るじゃないですか。

い、いい、息吹!息吹です。

命の息吹ですよ。

わなわなわなと電流のように、まだ、人生を始めていないしわくちゃの羽のその根元から、命のビリビリが伝わってきて思わず心の中でうわと叫びのけぞってしまいました。

爪楊枝にしたらほんの数本くらいの細さの体なんですよ、よくまあこれだけの馬鹿力が出せるもんです。

ありったけの力を総動員して危険から逃れようとしているのです。

ごめんごめん、きみを傷つける気はないよ。

少しだけ待って!

大急ぎで奥まった花壇に走り寄り、低く咲いている白い花びらの上に放ることができました。

ホッとして様子を見ると、さっそく土の上に飛び降りて操れないヨットみたいにヨロヨロしながらよれた羽をバタつかせようとしています。

開ききっていない黒い羽の中に、薄い水色の模様が少しだけ見えていました。

大丈夫だよ、慌てなくていいよ、そこなら見つからないからゆっくりと羽の準備をするといいよ。じゃあね〜!

 

仕事に戻って同僚のヒガシさんにそのことを話していたら、急に心配になりました。

羽を開いてる途中で何かに掴まれたりしたら、そのまま固まって永遠に開かなくなったりしないだろうか。

帰り道、そんなことをヒガシさんと話しながら花壇の白い花のあたりを探してみたけれど姿無し。

大丈夫だよ! いないってことはちゃんと羽ばたいて飛んでったってことだよ。アゲハ蝶って、意外にも遠くまで飛んで行くんだってよ〜。

ヒガシさんに言われて、なるほどと合点。

二人で本日のお互いのトンチンカンっぷりをなぞっては、大笑いしながら帰りました。

 

翌日、お日様の薄らいだ光に気を良くしながら歩いていると、不意に黒い蝶が目の前に。

現れたと思ったらすぐにU字を描いて道端の緑の中にひらひらと舞い戻って行きました。

黒い羽の中に、透き通る水色。

もしかして?

いやいや、それはないよね。

それが、きみであってもなくても、最後まで元気に飛び回るんだよ!

命の持ち時間を機嫌よく生きるんだよ~。